86 エイティシックス 第4話「本当の名前を」Real Name
「カイエ、君の死を穢してしまった」
で始まる、レーナとスピアヘッド隊の交流会。
この回では「小さな名前」の意味を問いかける、人権の基本的な部分に対する一つの解を出しています。
無意識化の差別、潜在的な偏見。カッコよく言うと「unconscious bias(アンコンシャス・バイアス)」。
要はストロースの言う構造に内包される差別、というやつです。
このバイアスがレーナ自身の中にある事を自覚されられたのが前回。
そのメタファとして「名前」を強調しています。
「本名を知らないから相手を人間扱いしていない」をそのままの意味で理解してしまうと間違った方向に理解が進みます。
本名を知っていても人間扱いしない事は世の中往々にしてあります。
例えば、ニュースで交通事故で死んだ人の名前。
セオトの言葉を借りるなら
「家に帰ったらすっかり忘れて夕食楽しめる程度」
の話です。
これが自分の知り合いや大事な人だったらどうでしょうか?と想像してみましょう。
つまり、ありとあらゆる肩書を外していって、一番最後に残るのが名前。そして自己紹介する時に一番最初に来るのも名前。
つまり余計なモノを削りに削って、最終的に「わたし」や「あなた」を特定する言葉が名前だ、という事です。
なので「名前が無ければ人でない」という解釈よりも「その人の実在」という意味で、名前を使っていると考えると分かり易いかと思います。
もう少し簡単に言うと「相手に興味を持つ」と言う事です。
さてこの回は「構造」についても踏み込んでいます。
潜在的な偏見に踏み込むなら、どうしても構造にも触れる必要があります。
アルバと86。
生活環境によって構造が異なります。
この辺がペンローズ(技術者の女の人)の台詞から色々分かります。
この2人、友達なんですよね。この辺の設定も感慨深い。
ペンローズの台詞。
関わった分だけ後悔する。戦争は始まってしまった。あの頃には戻れない。
これ、レーナのコレから辿る道を知っているんですよね。自身の経験として。
カイエの言葉を借りるならペンローズは「処女」では無い。
自身の無力さを痛感して、絶望して、諦めたから、そういう経験を友達にして欲しくないから。
だから「親友の言う事はちゃんと聞くものよ」と言う台詞に繋がる。
因みに叔父様もその辺は一緒だろうと想像します。
高すぎる理想。自由、平等、博愛、正義、高潔。それを貫けているのか?と問いかけられ、レーナは絶句します。
絶句しなかったらレーナはそこで終わりだったし、86も1巻で終わっていたので絶句以外の選択肢は無いのですが。
自由とは何か?平等とは何か?博愛とは?正義とは?高潔とは?
そう問いかけられ、当たり前に目を向けた時「そんなのは当たり前だ」と何の疑問を抱かない態度は考える事を辞めた傲慢な態度だと言う事であり、その後は自身を合理化していくだけなんですよね。そして最後は他のアルバと同じ結論に至る訳です。
86は人間モドキで人間ではない。だから自分たちは正しい。因みに
「届かないと知りながらなお追い続けるのは愚かで卑怯な事」
は何を言っているのかは分からんかったですたい。
そしてレーナは86達の名前を聞きます。
これは、86という肩書を除外し「あなたたち」を「実在の人間」として見つめよう、という意志なんですよね。
レーナもハンドラー・ワンからミリーゼ少佐へと変わります。
でも構造は変わりません。つまり「高みの見物」は変わりません。
だからと言って拒絶するのではなく、そのままその構造を受け止めた後にじゃあどうするの?という点。
この辺は続きで分かっていくのでしょうきっと。
因みに「86が戦い続けている理由」というのも、少しだけ触れています。
生き残った奴が、行きつく所まで、全員を連れて行こうこの意味を正しく理解するには、共和国民である我々にとって「死」が余りにも遠すぎる。
さて。
セオトの台詞の「カイエ、君の死を穢してしまった」の意味、ココまで読めば分かって頂けただろうか?
差別の本質は平均を見て個を見ないアルバと同じ事をセオトはやった。
レーナをアルバという括りで語り、差別した。
それを踏まえて、3話のカイエを見直して下さい。
その台詞の中から、カイエの背景を想像してみて下さい。
そして。
これでも、86の中ではまだまだ序盤戦ですぜ、という事を忘れないで欲しい。
追伸
1話、2話の感想が無いのはワザとです。
伏線多すぎ。後で回収されたら書きます。
追記
カイエの背景、3話の部分の該当の台詞。
86の全員が必ずしも善人ばかりではなかった
私は86の中でも珍しい人種だったから収容所でも以前の隊でも色々あったよ
だから、アルバというだけで恨んだりしない
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